君と奏でるノクターン
――何それ!? もったいぶらないで教えてよ


――いやだ、夏限定だから教えない。
そうだ、アップライトのオールドピアノの何処かにマジックで落書きしてるんだ。
留学するって言ったら、マスターにせがまれて


――えっ!? 落書きって、あなたが!?


――サインだよ、サイン……緒方、クリスマスに電話する。
曲、仕上げておけよ


――サイン、探してみるわ。
クリスマス、楽しみにしてる。
あなたって、鬼ね……頑張る


他愛もないメールのやり取りを「ありがとう、じゃーな」で締めくくり、画面をOFFにする。


余韻冷めやらぬまま、ヴァイオリンの手入れの続きにかかり、詩月は溜め息を漏らす。


あの店で緒方の弾くピアノ演奏を聴いてみたいな、と思う。


――レッスン帰り、あの店に立ち寄る時は、いつも気分が滅入っている時だった……
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