君と奏でるノクターン
詩月の言葉が、次から次に思い出される。


「郁、大丈夫か?」


「……貢」


「完璧に弾こうと思わなくていいんじゃないか? 周桜が君に求めてるのは、そんなことではないはずだ」


「周桜くんが求めているもの……」


「ん、完璧さっていうのは練習して弾いて弾いて弾きこんでいけば、いつかは到達できるだろう。苦労して完璧な演奏に辿り着く者もいれば、難なく完璧に弾ける者もいる」


郁子は貢の顔を見上げ、ただじっと聞いている。


「ただ上手いだけ、ただ正確なだけ、ただ綺麗に弾くだけ、周桜が目指してるのはそんな上っ面な演奏じゃない。自分自身の演奏に悩んで悩み抜いて周桜は今、エリザベートに挑もうと思える位置にいる」

貢は淡々と諭すように話す。


「楽器で曲を征服して弾くのを演奏とは言わない。そんなものは音楽と言わない」


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