君と奏でるノクターン
スマホから聴こえる詩月のヴァイオリンの音が、心地好く響いている。

「俺は周桜の演奏を聴いていると、間崎准教授に言われたことの意味がよくわかる気がする」


間崎准教授、通称アラン。詩月のヴァイオリンの師匠リリィと共に、詩月に街頭演奏を勧めた人だ。
彼は貢が以前、師事していたヴァイオリン専攻の元准教授でもある。


「気づかないか? 周桜の演奏。同じ曲を弾いても弾くたびに違う印象を受ける。周桜の演奏は、こう弾くべきだっていう枠に捕らわれていない」

郁子は目を丸くし、身を乗り出す。


「周桜の演奏は『型破りな演奏、野蛮な演奏だ』と批判もされてるが。俺はそうは思わない。周桜は音を楽しんで、曲を愛し心で演奏している」


郁子が「あっ」と息を漏らす。


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