君と奏でるノクターン
「『音楽は心で弾くんだ』周桜は何度も口にしていただろう。「上手く弾けました。よく出来ました」そんな演奏を周桜は求めていない。完璧でなくていいんだ。郁は郁の演奏をすればいい。郁にしかできない演奏をすればいい。郁が心から楽しんで演奏できればいいんじゃないか?」


「……音楽は心」


「聴き手を惹き付けて止まない周桜の演奏は、周桜が心で弾いているからだ。周桜自身が演奏することを楽しんで弾いているからだ」


「楽しんで演奏……」


「周桜と3人、2年前だったか、駅前の下村楽器店主催でアンサンブル演奏をしたよな」


「ええ、ずいぶん前のような気がするけれど」


「あの後、周桜が何処か吹っ切れたような顔をしていて、訊ねたんだ。『何か掴んだのか?』って」


「周桜くんは何てこたえたの?」


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