君と奏でるノクターン
「『音楽って、音を楽しむって書くんだって。そんな簡単なことさえも忘れていた。自分自身が楽しんで弾いていない演奏が、聴き手を感動なんてさせられないんだ』って」


「周桜くんが?」


「ん、悩んで悩んで悩み抜いて、1度はピアノを止めようとした周桜が辿り着いた答えが、たぶん『音楽は音を楽しむ』だったんだろう」


スマホから聴こえる曲が変わっている。


「ヴァイオリンロマンス」から「ROSE(愛は花)」に。

美しく優しい旋律。

詩月の透明感あるヴァイオリンの澄んだ音色が、切なくなるほど暖かく胸を包む。


――緒方。君の音はどんな音だって受け止めてやる。どんなに儚い音も、掬いがたいような雑音でも、1つも溢さず、全部掬ってやる


郁子は詩月とピアノを奏でた時の、詩月の言葉が聞こえた気がし、ハッとしたように店の中央を見る。


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