君と奏でるノクターン
スタンウェイ社製、黒塗りのグランドピアノが澱と置かれている。


郁子は、そこに詩月が笑って座っているような気がした。


――あっ、周桜……くん



郁子は目を凝らし、それが幻だったとわかって尚、胸が熱くなっているのを感じる。


「凄い奴だよな。何処まで成長するのかって思うし、どれだけ弾けば気がすむんだってくらい練習して、周桜は更に高みを目指してる」


「周桜くんは練習を練習と思っていないし、試験もコンクールも審査員を聴き手だとしか思っていないもの」


「確かに、聴き手を大事にしてるな。それにあの細い体にどれほどの熱情とパワーを秘めているのかって思うと、恐いくらいだ」


「貢、スマホから聴こえる演奏なのに、すぐ傍で弾いてるみたいな気がする」

郁子はそう言って「ROSE」の歌詞を小さく口ずさみ歌ってみる。


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