シンデレラの落とし物
現地の人も仕事の合い間のコーヒーブレイクを楽しんでいて、どこか和やかな雰囲気に包まれていた。店内を見渡し、空いているテーブル席を見つけると、秋は美雪を促して座らせた。美雪がテーブルについて待っていると、秋が運んできたコーヒーが目の前に置かれる。湯気のたついれたてのコーヒーのいい香りがただよい鼻腔をくすぐった。テーブルを挟んだ反対側に秋が座る。

「どうぞ」

秋の低く響く耳に心地よい声に顔を上げると、テレビで見る整ったハンサムな顔がテーブルを挟んだ向こう、手を伸ばせば触われる距離にあった。まじまじと相手の顔を見つめる美雪は、吸い込まれそうな瞳とぶつかる。心臓が飛び跳ねて口から出そうなくらいドキドキした。

「あ、ありがとう……」

本物だ。
いまわたしとお茶をしているのは、テレビや雑誌で、ときに笑いかけ、ときにクールなポーズを決めてみせる大野秋なんだ。
目のやり場に困って心がざわつく。
秋の存在に振り回されっぱなしの美雪。絶大な影響力を発揮している秋は、そんな美雪の心の内も知らず、寛いだ様子で長い足を組み、テーブルに片腕を乗せ、コーヒーを口に運んでいる。
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