シンデレラの落とし物
ヴェネチアの移動は基本、船だ。消防車やパトカーすらも舟。ヴェネチア全体がまるで水上に浮かぶ街。
その美しさと幻想的な雰囲気から、まるで異世界に迷い込んだような不思議な気分を味わうことができるため、人気のある観光地である。
水の都と呼ばれるだけあって、他にはない独特の雰囲気を漂わせていた。
360度どこを見渡しても海に続く水路か、広大な海が目に映る。
美雪ははじめて見るヴェネチアの光景に、圧倒された。


「部屋がない!?」

広いフロントに、秋の声が響く。頭をかいてうーん、と唸っている。表情が曇っていることから明らかに物事がうまく進んでいない様子。

「どうしたの?」

不吉な予感を感じつつ、美雪は問いかける。

「オレが取った部屋以外に、シングルの空きがないらしい」

いいにくそうな秋に、美雪も少なからずショックを受けた。

「ってことは、わたしが泊まれる部屋は、ない」

困った顔を見合わせる。

「わたし、なんとかして別の……」

「待って。なんとかする」

迷惑はかけられない。いいかける美雪の言葉を秋は遮る。大丈夫だからと彼女の肩を軽くぽんっと叩き、フロント係りのホテルマンに向き直って英語で話し始めた。
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