シンデレラの落とし物
部屋がないっていうのになんとかできるんだろうか?

もしかしたらここで秋くんとはお別れになるかもしれない。
わたしがいることで、せっかくの海外旅行の邪魔をしたくなかった。現にすんなりチェックインしているはずの時間、フロントで足止めさせてしまっている。
素敵な思い出ならもうたくさんもらった。
ひとりでゆっくりヴェネチアの街を回るのも悪くない。
美雪は心を決めて顔を上げた。

「秋くん、わたし……」

「グラッツェ」

「?」

顔を上げて美雪が見たものは、目の前で納得顔でカギを受けとる秋だった。

「行こう」

「あ……はい」

ロビーを抜けてエレベーターに乗り、降りる。壁に掛かる部屋の番号案内を確認して、部屋へ向かう秋の後をついていく。鍵穴にカギを通しドアを開ける秋に導かれるままに部屋へ入った美雪は、すぐに立ち止まった。

「……で、これはどういう……?」

目の前には、丁寧にメイキングされたベッドがふたつ。
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