シンデレラの落とし物
「でも大丈夫。タクシーあるから」

気遣う秋に、なんとかなるからと美雪は笑顔を返す。

「わたしより秋くん大丈夫? 明日……というか、今日も仕事だよね? 仕事に支障がでたら大変」

美雪が見ていると、渋々といった感じで秋がため息をついた。

「それじゃ、出るか」

口を開いたら、もっと一緒にいたいといってしまいそうだったので、美雪は口をつぐんだまま頷いた。
先に立った秋が、美雪が席を立つのを待っている。美雪は体がテーブルにぶつからないように下を向いたまま立ち上がった。

「ーーー?」

立ち上がったところで、不意になにかが額に触れた。
柔らかくて温かな……?
顔を上げるとテーブルを挟んだ反対側の秋が意味深な瞳でこちらを見ている。

いまの……もしかして唇?

ほんの一瞬の出来事で、ほんとうに唇だったのかどうかも自信がない。
すると、今度は美雪が見ているなか、ゆっくりと近づいてきた秋が、額に優しく唇を押しつけた。

「………!!」

驚いて危うく上げてしまいそうになる声。口元を押さえる為に出した手を、秋が引き寄せるようにして掴む。体ごと秋に傾き、唇がキスで塞がれた。
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