それは薔薇の魔法
始まりの出会い
狭い部屋に朝日が差し込み、明るい光で満たされる。
窓から聞こえる小鳥たちのさえずりが、朝の訪れを知らせた。
わたしはベッドから降りて、寝間着から普段着へと袖を通す。
備え付けの鏡を見ながら軽く身なりを整えて、腰まで伸びた髪を一つにまとめた。
ウェーブのかかった亜麻色の髪の毛は父親譲り。
ちなみに瞳は母親譲りである。
「今日も一日、笑顔を忘れずに」
これは母親の口癖で、わたしの大切なおまじない。
鏡に映る自分に向かって笑顔を向けて、わたしは部屋を出た。
「おっ、おはようローズ」
「おはようございます」
外に出るための玄関で、顔馴染みの門番と挨拶を交わすのはもう日課となっている。
今日もちょっとした話をしていこうと思ったけれど、いつもと少し様子が違っていた。
「何かあったんですか?」
「あぁ、それが………」
一瞬門番は躊躇ったように口を閉ざし、はぁ、とため息を吐いた。
その顔にはどこか疲れの色が見える気がする。
「実は、シリル様が……」
話を聞いて、わたしは思わず目を丸くしてしまう。
なんでも朝、シリル様を呼びに行ったらお姿が見当たらなかったらしい。
部屋中を探したけれど見つからなかったとか。
シリル様とはこの国の王子である。
もうすぐ成人を迎え、どこかの国の姫を妻に迎えることが決まっている。
今、そのお相手が誰になるのかと、その話題で城はもちきりだ。
けれど本人はあまり乗り気ではないと聞く。
上に立つ者として仕方がないとは思うけれど、やっぱり少し気の毒だと思わないこともない。
もっとも、わたしがそんなことを言える立場ではないのだけれど。
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