それは薔薇の魔法
心の中で自分で自分を責める。
いくら今ここで話せているからといっても、この方はこの国の王子なのに。
普通ならわたしのような身分の者が話かけるのも無礼に当たるのに、まして笑いあうなんて……
あわあわと自分の軽率さにわ恥じていると、ふっとシリル様の表情が崩れた。
「では、私はそろそろ行くよ」
ここももうすぐで見つかりそうだ、と苦笑してわたしに背を向ける。
あっ…ど、どうしよう………
シリル様は高貴なお方。
わたしなんて彼に比べればちっぽけな存在。
もう一度会える保障なんて皆無に等しい。
このまま、何も言わずに別れてしまってもいいの?
………いいわけがない。
例えすぐに忘れられるとしても、シリル様がくれた言葉は確かにわたしの中にあるのだ。
お礼を言えなかったと後悔するぐらいなら、今恥をかいてでも伝えるべきだ。
「シ、シリル様……っ!」
とても小さな声ではあったけれど、シリル様の耳には届いたのか、こちらを振り返った。
煌めく瞳に見つめられて、頭が真っ白になりそうになりながら、なんとか自分を保つ。
「わ、わたしの歌を、誉めて下さって、ありがとうございました。
とても……嬉しかったんです」
きっと、この数秒が、わたしが生きていた中で最も緊張したときだったに違いない。
少し震えていた指が証拠だ。
「こちらこそ、いろいろ世話になった」
ありがとう、と微笑んで、シリル様はわたしの視界から消えた。