それは薔薇の魔法
夜の薔薇園
あれから三日が経った。
案の定、わたしとシリル様が再び会うなんてことはなかった。
むしろその姿すらお見かけしていない。
それもそのはず。
今までだって長い間働いていたけれど、わたしとシリル様の間に接点などなかったのだから。
多分、活動時間にズレがあるのではないだろうか。
わたしの一日は朝早くから始まるし、人が集まる昼下がりはずっと裏で調理場や他の手の足りないところの手伝い。
夜になると薔薇たちの様子を見て、すぐに寝て明日に備える。
これがだいたいのわたしの一日。
あの日はたまたまシリル様の朝が早かっただけ。
これが、会えないことが普通のことなんだ。
そう思う半面、もう一度だけでもいいからその姿を見たいという気持ちもあった。
何故と言われれば分からないけれど……
それは多分、一種の憧れなのかもしれない。
そんなことを考えながら、かちゃかちゃと調理場の隅でお皿を洗う。
今はちょうど昼頃で、国王夫婦がお昼を食べ終わったぐらいだろうか。
この国の国王様は結構な愛妻家で、とても仲がよいと評判だ。
なんでも二人は昔からの知り合いで、国王様が成人の日に一緒に結婚式を開いたというのだから驚きだ。
普通は分けてやると思うのだけれど……シリル様はどうするつもりなのかしら?
でも先ずは相手を決めなくてはいけない、わよね。
まだそういう噂はたっていないし……
でも、あんなに朝早くから逃げていて、縁談がうまくまとまるのか少し疑問だ。
「ローズ!」
「あっ、はい」
最後のお皿を洗い終わったと同時に呼ばれて、慌てて手を拭く。
呼ばれた方を見ると、顔馴染みの兵がそこにいた。