それは薔薇の魔法
「お茶会なら、薔薇のお菓子などでおもてなしできるのですが……」
舞踏会は踊ったり話をしたりで、お菓子は……食べないわよね。
「……ローズ」
「はい?」
シェイリー様に名前を呼ばれて顔を上げれば、まっすぐな目がわたしを見ていた。
シリル様よりも淡い、菫色の瞳。
それがだんだんと近づいてくる。
え、え……っ?
きょとん、と間抜けな顔をするわたしの前でシェイリー様は怖いぐらいの顔で口を開いた。
「今、なんて言ったの?」
「え……お茶会ならおもてなしができると………」
この発言がいけなかったの……?
やはり、ただの庭師のわたしが、お菓子を作っておもてなしをするなど失礼に当たるということなのだろうか?
びくびくと怯えるわたしにシェイリー様は真剣な目を向ける。
「ローズ、あなた薔薇のお菓子が作れるの?」
「えっ?」
そこ?と軽く拍子抜けしたがとりあえず頷く。
昔から薔薇が好きなせいか、暇さえあれば薔薇に関してできることをいろいろとしていた。
幸いにもわたしは調理場に入ることができ、時間があればお菓子づくりもしていた。
もっとも誰かに食べさせるわけでもなく、自己満足だったのだけれど。
それでも食べたいという人には作っていたし、味も評判もそれなりだと思う。
しばらく考えこんでいたシェイリー様は、振り返ってアレン様に顔を向ける。
「あなた、今日の舞踏会は夜のお茶会にしません?」
わたしはその言葉にびっくりしてしまう。
い、いいのかしら、そんなにあっさり……
いや、でもアレン様がどう言うか……
なのにこちらもあっさりと分かったと了承している。
ほ、本当に大丈夫なのかしら……?
不安そうなわたしにシェイリー様が、舞踏会もお茶会も似たようなものよ、と言って、わたしもとりあえず安心する。