それは薔薇の魔法




それにしても、朝から逃げ出すほどに縁談が嫌なのかしら。


シリル様も大変なのね……



「シリル様のおかげで、城中大変だよ」



苦笑を漏らす彼に曖昧な笑みを返す。


確かに、こんなことが偉い方たちに知られてしまったら大変だろう。


シリル様もせめて置き手紙でもして行けばよかったのに。



「ローズはこれから薔薇園に向かうんだろう?」


「えぇ」



わたしはこの城で庭師として働いている。


と言っても普通の庭師ではないけれど……



普通、城で働く者は火や水などの使い手だ。


つまり魔法が使えないと働くことができない。


わたしには日常で役にたつような魔法は使えないけれど、珍しい"癒しの力"と"命の力"があった。


だからこそ、こうしてこの城で庭師の仕事を任せられているのだ。



「もしシリル様を見かけたら城に戻ってくれって伝えてくれよ」


「えっ、そんな……わたしのような身分の者がそんなこと言えないわ。

それに、わたしはシリル様に会ったことがないし……」



これでも長い間城で働いてはいるけれど、わたしの仕事は庭で花のお世話をしたり、裏で調理場の手伝いをしたりなどで表にでることはなかった。


だからかシリル様に会ったこともなければ見かけたこともない。


シリル様の顔が分からないのに声をかけるなんて……



「大丈夫だって、見れば分かるから。じゃ、」



よろしく頼むよ、と言って慌てたように彼はわたしに背を向けた。



「見れば分かるって……」



それはまぁ、噂でどんな容姿なのかは分かるけれど……


でもまぁ、わたしがそんな人に会うなんてないわよね。



「あっ、早く行かないと!」



仕事を思い出して、わたしは急いで目的の薔薇園に向かった。






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