それは薔薇の魔法
シリル様はこの国の王子。
わたしはただの庭師。
こんなに身分が低いわたしがシリル様の隣に座るなんて、図々しいにもほどがある。
「わたしは、立ったままで大丈夫です……」
「身分を気にしているのか?」
その通りなのだが、何となく気まずく感じてしまって、やんわりと視線を外してしまう。
どうしようと困っていると、シリル様はくすりと笑った。
「そんなものは気にしなくていい」
「でも……」
「それに、前に会ったときも隣に座っただろう」
あっ、そういえば……
でもあのときはわたしが立っていられなかったからで。
というかその前にしてしまったことで頭がいっぱいで、そこまで気が回らなかったわ。
再度シリル様に勧められて、わたしは少し間をあけて隣に座った。
緊張で、胸がドキドキと鳴る。
夜で静かなため、余計大きく聞こえるような気がした。
「あの、シリル様はどうしてここに……?」
話しかけるのも勇気が必要だったが、さっきから気になっていた質問を問いかける。
向こうに戻らなくてもいいのかしら。
「あぁ……我が儘な姫君たちの相手にも疲れてしまってね。
ここでなら静かにできるかと逃げてきたんだ」
わ、我が儘って……
確かにそんな感じはするけれど。
「そんなことをおっしゃっていいのですか……?」
「よくはないだろうね」
そ、そんなあっさりと言ってしまって……本当にそう思っているのか疑問だわ。
不安そうな顔のわたしに、シリル様は少し悪戯っ子のような無邪気な笑みを向ける。
「けれど、今私の言葉を聞いているのは貴方だけだ。
向こうの耳に入らなければ大丈夫だよ」
「まぁ……」
その考え方が、わたしが想像していたシリル様とは違い、思わずくすくすと笑みがこぼれる。