それは薔薇の魔法
王子様と言うと、上品で完璧というか……わたしとは違う存在なんだというイメージがあって。
けれどそんなこともなかった。
同じように何かを感じて、何かを考えて。
わたしたちと同じなんだわ。
「……貴方の笑顔を、初めて見られたな」
「え?」
あ、わたし……
シリル様の前で遠慮なく笑ってしまうなんて。
「貴方は笑顔が似合う」
「えっ?そんな……」
柔らかな微笑を湛えてわたしを見るシリル様の姿に、ドキリと胸が音をたてる。
こんなに綺麗な人に見られることも、まして褒められることなんて今までなくて、なんだか気恥ずかしいような。
心なしか頬が熱い気がするわ……
「そういう貴方は……いつまでも貴方では呼びにくいな。
名前を教えてもらっても?」
「わたしは……」
名前を言おうとしたとき、ガサリと生け垣から音が聞こえた。
自然とわたしとシリル様の目もそちらに向く。
茂みから現れた人を見て、わたしはまた驚きで目を丸くした。
「シェイリー様っ!」
「母上?」
シェイリー様もシリル様の姿を見てあら、と驚きの声を上げる。
「シリル、あなたがなぜここにいるのよ」
「母上こそ、なぜ…?」
「かわいい娘の顔を見にきたのよ。いけないかしら?」
「娘?」
シリル様の瞳に疑問と困惑、そして驚きの光が浮かび、その中にわたしを映した。
「………娘?」
「ちっ、違いますっ!」
それがわたしを指しているものだと分かって、慌てて首を振る。
わたしがシェイリー様の娘だなんて、なんて畏れ多いっ。
「シェイリー様も、何もそんな嘘を言わないで下さいっ」
「あら、もう娘同然じゃないの」
「シェイリー様……」
そう思ってもらうのはとても嬉しいけれど、わたしなんてただの庭師なのに……