それは薔薇の魔法
「シリル、あなたはそろそろ戻ってはどうなの?」
姫君たちが待っているはずよ、と言うシェイリー様にシリル様は少し眉をひそめた。
「母上、私は……」
「とにかく、今は戻りなさい。アレンを一人であの我が儘な姫君たちに付き合わせるつもり?」
「それなら母上が行けばいいのでは……」
「嫌よ」
シェイリー様の綺麗な顔が不機嫌そうに歪む。
そういえば、アレン様が言うにはシェイリー様もこの縁談には乗り気ではないと。
シェイリー様も姫君たちにいい印象を持っていないのかしら。
「貴方も、戻った方がいいと思うか?」
「え、わたし?」
それは、まぁこのお茶会はシリル様のためのものだし……
「戻った方が、いいと思います」
そう言うとシリル様は少し前髪をくしゃくしゃと掻いた。
「……はぁ、分かりました」
諦めたようにため息をこぼし、シリル様は立ち上がる。
そのまま出口に向かい、途中でくるりとこちらを振り返った。
「今日はこれまでだが、ローズ、また今後ゆっくり話そう」
「え?あ、はいっ」
ふっと笑い、おやすみと言ってからシリル様は茂みの向こうに消えていった。
しばらくそちらに目を向けて考える。
シリル様はまた今後、と言っていたけれど……
また、ということは、また会う機会があるということかしら。
……いいえ、わたしはただの庭師。
きっとシリル様も深い意味で言ったのではないわ。
そう、あれは社交辞令だわ。
あまり、考えすぎてはいけない。
「ふふ……あの子も分かりやすいわねぇ」
「…シェイリー様?」
シリル様の消えていった茂みの方に目を向けて、シェイリー様は楽しそうに笑うけれど。
わたしは、なぜシェイリー様が笑っているのか分からなくて首を傾げていた。