それは薔薇の魔法
一人でショックを受けているとローズ、と名前を呼ばれた。
「今は仕事中かい?」
「い、いえ……」
仕事……と言えばそうだけれど、さっきははっきり言ってぼんやりしていてしまって。
……今さらながらに、わたしサボっていたわ。
なんてことを……!
「よかった。では少し付き合ってくれないか」
「えっ?」
てっきり叱られると思っていたので、そんなことを言われてわたしは目を丸くしてしまった。
今、付き合ってって……え?わたし?
何も言わないわたしに、シリル様は少し眉を下げる。
「やっぱり、迷惑だったかい……?」
「……!い、いえ、そんなことはっ」
ただ驚いただけですっ、と慌てて首を振れば、シリル様はほっとしたように柔らかく笑った。
その後、わたしとシリル様はマカライト広場から少し離れたところにある、ちょっとした休憩所に移動した。
濃淡の違いのあるピンクに、白い薔薇に囲まれたそこは、特に女の人に人気と有名だ。
そこに着くと、すでにお茶の用意がしてあって。
もしかして、他の人と待ち合わせかしら……
微かな疑問を胸に抱きながら、わたしはシリル様に勧められて椅子に座った。
「それで、付き合ってほしいとは……?」
何のお話も聞かずにここに来てしまったのだけれど、いいのかしら。
疑問を浮かべてシリル様を見れば、シリル様はくすりと綺麗な笑みを浮かべた。
「あぁ……一人でここに来るには少し勇気が足りなくてね」
「確かに、そうですね」
ピンクの可愛らしい薔薇は、少し男の人からは行きにくい場所ではあるわよね。
でもシリル様なら違和感がないように感じるのは、わたしだけなのかしら。
他の人は……あまりいいイメージが思い浮かばないわ。
想像すると、やっぱりおかしくて。
わたしもくすりと小さく笑みをこぼす。