それは薔薇の魔法
つまりは、シリル様はここを訪れたかったけれど、一人は嫌だからわたしを誘った、ということよね。
でも……
「わたしで、よかったのですか?」
「何をだい?」
不思議そうな顔になるシリル様。
「だって……わたしではなくても、シリル様が誘って下されば他の姫君たちなら一緒に来てくれたのではないかと思って……」
わたしはただの庭師で、高貴な身分があるわけでも、優れた教養があるお姫様なわけでもない。
わたしより、もっと一緒にいて楽しいと思う人でもよかったのではないかしら……
目線を下げるわたしに、シリル様は穏やかに微笑んだ。
「それでも、わたしは貴方とここに来たかった」
「え……」
その言葉の意味が分からなくて首を傾げるけれど、シリル様は穏やかに微笑んだままだった。
「それより、冷めてしまわないうちにお茶をどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
用意されていたお茶はほんのりと温かくて、微かな薔薇の香りがした。
おいしい……
自然と緩んでしまう頬には気づかず、再び口をつける。
しばらくお茶を飲みながら他愛のない話をしていたけれど、シリル様がそういえば、というようにわたしを見つめた。
少しびっくりして心臓が跳ねたけれど、わたしはただシリル様の瞳を見つめ返す。
何、かしら……?
シリル様が何をしたいのか分からなくて少し不安になる。
「やっぱり……」
や、やっぱり……?
次の言葉にごくりと喉を鳴らしてしまったのは、仕方がないと思う。
ドキドキしながら次の言葉を待っていれば、不意に伸ばされた手。
え?と思ったときには、シリル様の手がわたしの頬に触れていた。
テーブル越しに、ゆっくりとシリル様の顔が近づく。
思わず逃げたくなる衝動を抑えて、わたしはシリル様の瞳を見つめた。