それは薔薇の魔法
それなのに、シリル様はわざわざわたしに許可をとりにきてくれて。
律儀な姿に、思わずふふっ、と笑みがこぼれてしまった。
それを違った意味で捉えたのか、シリル様は少し拗ねたような顔になる。
「私が花束なんて、やっぱり似合わないかい?」
「ふふっ、いいえ、そんなこと……むしろ逆です」
とても似合いますよ、と言うとシリル様は照れたようにその口元も緩める。
ふと、シリル様は誰に薔薇の花束なんて送るのかしら、と疑問が浮かぶ。
男性に花束は……ないだろうし、だとしたら女性よね。
シェイリー様のお誕生日はまだだし…もしかして、恋人……?
そう、よね……まだお城の中で噂になってはいけないけれど、あと三ヶ月もしたらシリル様の成人の日。
そろそろそういう人がいてもおかしくない。
ズキン――――
「…………?」
何、今の……?
胸の辺りに感じた、鋭い痛み。
それはちょうど薔薇の棘が刺さったときのように、一瞬の痛みを残して消えた。
なんだったのかしら……?
不思議に思いながらもあまり気にしないようにする。
気にしても始まらないものね。
「シリル様は、その方に何色の薔薇を送ろうと思っているのですか?」
「そう、それが問題でね」
ふぅ、と息を漏らし、シリル様は少し困ったように笑みを作る。
「どうせなら好みのものを渡したいと思ったんだが『こういうときぐらい自分で考えて持ってこい』と言われてしまってね」
「まぁ……」
シリル様に向かってそんなことを言える人がいたなんて……
だとしたら、やっぱりその方はどこかの国の姫君なのかしら。