それは薔薇の魔法




そうと決まればその中心、つまりはベンチのあるところに行こうと生け垣の中に入る。


緩やかな曲線を描いた道を歩けば、すぐに見えた白いベンチ。


少し贅沢かもしれないけれど、座りながらでもいいかしら、と足を踏み出すと。



え?と思ったときには口を塞がれていた。


思わぬ方向からの力に倒れそうになったとき、ぐっと引き寄せられた腰。


同時にもう一つの手がわたしの口を覆った。


気づけば後ろにいる正体の分からない人とわたし、二人っきりでこの高い薔薇の生け垣の間にいる。



「…………っ、」



誰……誰なのっ?


怖い…怖くてたまらない。


わたし、どうなってしまいの?


こんなに朝早い時間、しかも周りから見えにくいこんな場所。


他の誰かの助けなんて期待できない。


それならば自分でどうにかしなければならない。


頭では分かっているのに、恐怖で体が動かせない。


本能的に悲鳴をあげたくなったわたしの耳元で、静かに、という男の人の声がした。


その声は普段なら聞き惚れてしまうような美しい声だったけれど、今の状態ではどんなものであろうと、全て恐怖の対象になってしまっただろう。


意図せず、肩がびくりと揺れた。




「……たか…!?……」



「…や…ちらに……ない………」



「…ったく……こに………らっしゃるのか…」



「…まったくだ………」




だんだんと近づいてくる声に心臓がドクドクと音を鳴らす。



お願いっ、気づいて………!!



必死に心の中で祈るけれど、その願いが届くこともなく。


次第に消えていく声に恐怖が襲う。



どうしよう……どうしよう………っ


怖い…怖い…怖いよ……






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