それは薔薇の魔法
そんな心配を抱えながらも準備は進んでいく。
「ありがとう、ローズ。こっちはもう大丈夫だから、ローズはローズの仕事してきて」
「そう?じゃあお言葉に甘えます」
舞踏会は国外からも人が大勢くる。
少しでも薔薇を美しい状態にして、アレン様とシェイリー様の顔に泥を塗らないようにしなくては。
よし、と気合いを入れてわたしは庭へ向かう。
そして、見慣れた庭に入って思わず口元を押さえてしまった。
「どう、して……」
サァ、と血の気が引いた。
「誰が、こんなことを……」
震える足を動かして、地面に落ちている薔薇の花を手に取る。
そう、庭全ての薔薇の花が切り落とされていた。
どうしましょう……明日の夜は舞踏会なのに。
ドクドクと、心臓が嫌な音をたてる。
わたしが、なんとかするしかない。
実際、試したことはないけれど。
でも昔、一応の歌は教えてもらった。
わたしが、やるしかない。
「そうとなれば、アレン様たちに報告をしないと……」
立ち上がって振り向くと、誰かが急いで立ち去るのが見えた。
あの後ろ姿は……
まさか、あの人が?
「でも今はそれどころじゃないわ」
早くしないと……成功するためしなんてない。
時間が惜しい。
強く前を向いて、わたしはアレン様たちのいる広間へ向かった。
ちょうど時間が空いたらしく、わたしはすぐに二人に会うことができた。
「どうしたのだ?ローズから来てくれるとは、珍しいな」
優しい笑みを浮かべるアレン様に罪悪感が心を占める。
わたしを信頼して、庭の全てを任せてくれたアレン様。
なのに、わたしは……
グッと唇を噛み締めて頭を振る。
後悔はあとでできるのだから、今はわたしができる精一杯を。
「アレン様、実は……」