それは薔薇の魔法




カタカタと震えだしたわたしの体から、不意に圧迫感が消えた。


腰にあった力もなくなり、へなへなとその場所に座りこんでしまう。



逃げなきゃ………



そう思うのに、恐怖が勝ってしまって動くことができない。



わたし、このままどうなってしまの……?


自分の体を抱きしめるようにして震えていると、視界に靴の姿が映った。



きっと、後ろにいた人だわ……


わたしをどうするつもりなの?



恐怖が涙になって頬を伝う。


伸ばされた手に体を強ばらせると、意外にも暖かい温もりがわたしの涙を拭いた。



「すまない。怖がらせるつもりはなかったのだが……」



…………すまない?



謝罪の言葉が頭の中を回る。


え……どういうことなの?


この人は、わたしを傷つけるつもりはなかったということ?


状況についていけず、とりあえずおずおずと顔を上げて驚いた。



朝日に煌めく淡い金色の髪、わたしを見つめる美しい紫の瞳。


その顔は少し困ったように眉を下げていて、形のよい唇が僅かに緩んでいた。




あぁ、確かに……噂通りの人だ。


すぐにこの人が誰なのか分かってしまった。




「シリル、様………」




わたしの目の前に、この国の王子であるシリル様がいた。













――――――――――――――――――
――――




「驚かせてしまってすまない」


「い、いえ……わたしの方こそ、その、すみませんでした」



ベンチに座った状態ながらも深々と頭を下げるわたしに、シリル様は困ったように笑っていた。


頭を上げてほしいと言われても、わたしとシリル様の身分は天と地ほど違うものだし。


それに、あろうことか、力が抜けてしまって自力で立てなかったわたしを抱き上げてこのベンチに座らせてくれたのはシリル様だ。


なんて畏れ多い……





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