それは薔薇の魔法
「わたくしがしたのよ」
にっこりと、綺麗な笑顔を浮かべているのに、その瞳は冷たくて。
「どうして……」
どうして、リリアス様がそんなことを……
思ったことが自然に言葉として紡がれる。
「そんなの、決まっているじゃない」
ストン、とリリアス様から表情が消える。
その様子にビクッと肩が揺れた。
「わたくしは、シリル様に相応しいわ。
身分も、容貌も、教養も、何一つ、誰にも負けていない。
それなのに……シリル様はわたくしを見ていない」
キッ、とこちらを見据えるリリアス様。
怖い、と思った。
「貴女のせいよ。庭師だと聞いたから、これだけのことをすればここから追い出されるかと思ったけれど、残念だわ」
近づく距離に、思わず後ずさる。
「貴女、邪魔なのよ。ただの庭師がシリル様に釣り合っていると思うのかしら?」
ズキン、と痛む胸。
「わ、たしは、別にそんなことは……」
「シリル様のことを慕っていらっしゃるのに?」
「!!!」
目を見開くわたしに、リリアス様は追い打ちをかける。
「シリル様が優しいのは、貴女が特別だからじゃないわ。
そんなことも分からず、シリル様に対して恋心を抱くなんて、身分をわきまえなさい」
リリアス様の言葉一つ一つが鋭い棘となって胸に突き刺さる。
反論できないのは、きっとそれが正しいから。
「シリル様に相応しいのはわたくしよ」
自信に満ち溢れた笑顔。
自分がシリル様に選ばれると、信じて疑わない姿。
「これからはその事を心に戒めておきなさい」
最後にそう言い残して、リリアス様はわたしに背を向けた。