それは薔薇の魔法
リリアス様の言葉が、頭に残る。
……ちゃんと、わきまえているつもりだった。
わたしはただの庭師で、シリル様はこの国の王子。
いづれはこの国の王となるお方。
そんなシリル様とわたしとでは住む世界が違っていて、今こうして親しく話せるだけで奇跡みたいなもの。
分かって、いたはずなのに……
「わたし……」
リリアス様の言った通りだわ。
わたしはいつの間にか、シリル様の優しさを勘違いしてしまっていた。
シリル様が優しくして下さったのは、わたしがこの城で働いているから。
ここの庭師としているから。
アレン様とシェイリー様に、優しくしてもらっているから。
そんな簡単なことを、勘違いしてしまうなんて……
勘違いしてしまって、わたしは畏れ多くもシリル様に恋をしてしまった。
「どうして……」
気づきたくなんて、なかった。
こんな思い、曖昧なままでよかったのに、気づいてしまうなんて……
胸が、痛い。
前よりも、もっと、ずっと。
「シリル様……」
わたしは、どんな薔薇よりも美しく、誇り高く輝く貴方に恋をしてしまいました。
きっと初めて会ったとき、あの一瞬で目を奪われたの。
けれど貴方と私は違うから。
どうか……
「私の気持ちに気づかないで……」
この想いに、気づかないで下さい。
ゆっくりと閉じたわたしの瞳から、一粒の涙がこぼれた。