それは薔薇の魔法
忘れるために
あれから、わたしはシリル様と会っていない。
体調もよくなったので、シリル様のいないうちにわたしはあの部屋から自分の部屋へと戻った。
その言付けは申し訳ないと思いながらもシェイリー様に。
それから、何もない。
と言うよりはわたしがシリル様を避けてしまっている。
会ってしまえば、この想いに気づかれてしまいそうで……
でも、シリル様にはリリアス様がいる。
きっと、わたしのことなんてすぐ忘れてしまうわ。
その事実に胸が痛むけれど、きっと、これが正しい選択。
そう思いながら日々を過ごして、気づけばシリル様の成人の日が二週間後に控えていた。
「ローズ、」
「あ、シェイリー様」
薔薇のお世話をしているときにシェイリー様に話しかけられた。
何かご用でしょうか、と首を傾げるわたしにシェイリー様は優しく微笑み、話がしたいと言った。
そのままシェイリー様のお部屋に行き、気づけばいろいろな話をしていて。
今までもお茶会に何度か誘われていたので、わたしも緊張せずに久しぶりに笑うことができた。
ふふ、でも初めて誘われたときはパニックになってしまって。
紅茶をこぼしてシェイリー様に笑われてしまったわ。
思い出して頬が綻ぶ。
「あら、どうしたの?ローズ」
「いえ…なんでもありません」
わたしは笑みを浮かべて紅茶を口に運んだ。
「シリルも、もう成人なのね」
「……そうですね」
シリル様の名前が出てきてドキ、と心臓が跳ねる。
その動揺を悟られないように、わたしは紅茶のカップをテーブルに置いた。
「あの子、誰にするか決まったのかしら?」
「シェイリー様、ご存知ないのですか?」
「教えてくれないのよ」
冷たい息子だわ、とシェイリー様はため息をつく。