それは薔薇の魔法
「顔を上げてくれないか。これでは貴方と話もできない」
「あっ、はい」
顔を上げれば穏やかな瞳で見つめられて、なんだか気分が落ち着かない。
まぁ王子様相手なら当たり前なのかもしれないけれど。
「さて、まず私があそこにいた理由なのだが……」
その理由は予想通りというか。
シリル様のお話によると、今日、たくさんの縁談の中から選ばれてきた姫君たちが城に来るらしい。
選ばれたと言ってもその数は二桁をいくみたいだけれど。
そしてシリル様と姫君たちの交流のために、お茶会や舞踏会が開かれるとか。
昼から付き合っていたら疲れてしまう、と考えたシリル様は姿を消した、と。
「あのときは兵に見つかるわけにも、気づかれるわけにもいかなかったんだ。
私の勝手な我が儘で、貴方に怖い思いをさせてしまった。
本当に、申し訳ない」
今度はわたしが頭を下げられてしまいびっくりする。
「そんなっ、泣いてしまったことなら気にしないで下さい。
わたしが勝手に泣いたんですし……」
こんなところを他の人に見られてしまえば、わたしは間違いなくこの城を追い出されてしまう。
それに、本当にわたしが一人勝手にあれこれ考えて勝手に泣いてしまったのは紛れもない事実。
シリル様が悪いわけではないのに謝られるのは、返って申し訳なく感じてしまう。
顔を上げて下さい、と半ば土下座でもしてお願いしたいと思いながら、シリル様に言う。
い、いろんな意味で心臓に優しくない。
「私を許してくれるのか」
「許すも何も、わたしが勝手に泣いただけですから……」
怖かったのも事実ではあるけれど。
結果良ければ全てよし、ということにしておこう。
「ありがとう」
ふわ、と微笑んだシリル様の笑顔にドキン、と素直に胸が鳴る。