それは薔薇の魔法
あわわ………
少し熱を持った顔を見られないように少し俯く。
さ、さすがシリル様……
この人が少し笑いかけるだけで、周りの女の子が恋に落ちるという噂も、あながち嘘ではないのかもしれない。
そう考えさせられるぐらいの魅力が、シリル様にはあった。
いけないいけない……わたしはただの庭師なんだから。
そんな浮わついた気持ちは持たないように気を付けなければ。
ふぅ、とため息とも深呼吸とも思える息を吐いてわたしは前を向く。
シリル様はその瞳に、わたしではなく、薔薇の花を映していた。
「美しいな」
眩しそうに目を細めてキラキラと輝く薔薇を見つめる。
その姿の様になっていること。
知らず知らずのうちに見惚れてしまい、改めてそんなことでは駄目だと自分に喝を入れる。
「そういえば、城で貴方の姿を見るのは初めてなのだが、貴方は何をしている人なのかな」
「え、あっ、はい。
わたしはここで庭師として働かせてもらっています」
「庭師?」
シリル様は驚いたように目を見張った。
「貴方が……?」
心底不思議そうに、また信じられないという顔をされるのはいつものこと。
それもそうだ。
庭師といえば大抵男性を思い浮かべるし、格好だってシンプルなドレスで、お世辞にも庭師の姿とは言えない。
「庭師と言っても、きっとシリル様のお考えになる庭師とは少し違うと思います」
やんわりと苦笑を浮かべてわたしは立ち上がる。
口で説明するよりも見てもらう方が早いかしら、と思ったのだけれど。
でも王子様相手に、こんなこと許されるのだろうか……
そんな疑問が今さらながらに生まれた。
……まぁ、抱き上げられたりするよりはいいわよね。