それは薔薇の魔法
なんだか気まずいような気がして、何かないかと頭の中で考える。
どうしようと焦っていると、目の前の薔薇が目に入る。
よかった……元気になっているみたい。
周りを見渡せば、他の薔薇たちも光を浴びて、綺麗に咲いている。
「薔薇は元気になったみたいだね」
「はい。よかったです」
濃いめの紫の薔薇にそっと手を添える。
この分だと、しばらくは美しく咲いていられそう。
自然と口元が綻ぶ。
「やっぱり、貴方の歌のおかげだね」
「いえ、決してそんなことは……」
ありません、と反論しようと顔を上げると、いつのまに来ていたのか、隣にいるシリル様の姿。
びっくりして体が一瞬固まる。
「あ、あの……」
紫の瞳の中に、困惑したような顔のわたしがいた。
薔薇のお世話のことで褒められたことは、今までだってある。
でも、わたしの歌を褒められたことなんて一度もなくて。
あぁ、薔薇のことでならお礼が言えるのに、自分のことになると慣れていないせいかどう言えばいいのか……
嬉しいことに間違いはないのに、言葉がうまく出てこない。
そんなわたしを見て、シリル様は少し寂しげに微笑んだ。
「私は、また貴方を困らせてしまったようだ」
「!!いえ、そんな……」
慌てて首を振ろうとすると、近くから兵の声が聞こえてきた。
おそらく、まだシリル様を探しているのだろう。
そういえば、わたしもシリル様に会ったら城に戻ってくるように言っておいてと頼まれたのだっけ。
今の今まですっかり忘れていた。
でも、嫌がるシリル様に城に行ってほしいなんて……本当にいいのかしら?
そんなことを思いながら、遠ざかっていく声にほっとして、自然と顔を見合わせて笑う。
って、わたしったらなんて馴れ馴れしいことを……!!