君色-それぞれの翼-
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「随分真面目にやってるのねぇ。」

申込書の保護者欄に印鑑を押しながらお母さんが言った。
お母さんは戸谷君のことを知らない。だからあたしが勉強の為に(…まぁそうなんだけど)冬期講習に行くと思っているはず。
もし戸谷がいなければ、冬期講習なんて参加しなかったかもしれない。
その位、あたしにとって、戸谷君の存在は大きくなっていた。



既に恋愛感情を抱いていたのかもしれない。
しかし、この頃はまだ"一緒にいて楽しい"という風にしか感じていなかった。



「まだ2ヶ月もあるじゃん…」

カレンダーを見ては溜め息を吐く。
その時小学生だったあたしにとって、『冬期講習』という響きは新鮮であり、楽しみに思えるものだった。



しかし、時が経つのはあっという間。


今までの人生だって、よく思い返してみれば、あっという間。



12月16日。明々後日から、冬期講習が始まろうとしていた今日。あたしの家に1本の電話が入った。

「希咲ー、電話よー。」
お母さんに呼ばれてリビングに急ぐ。
「誰?」
「戸谷さんですって。知り合い?」
お母さんが難しい顔をしたので、あたしは焦って、「五年の子だよ。」と誤魔化した。



「もしもし」
『もしもし』
「もしもし?」
『あー、もしもし。』
「…戸谷君?」
『あぁ。』
本題に入るまで、だいぶ時間がかかった。
「何?」
『明日から。冬期講習。』
「はっ?」
まだ終業式終わってないんだけど、と言うと、学校が終わり次第、と言われた。
『冬休み入ってからは、朝9時から夜6時まで。』
弁当持って来いよ、と付け足して電話は切れた。







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