君色-それぞれの翼-
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「希咲、塾行かない?」
小学6年生の夏、母親のこの一言によって、あたしは塾に通い始めた。
理由は、目指している隣町の私立中学、羽坂学園の入試があるから。
それと……今の生活から抜け出したいから。
一橋 希咲 12才
退屈な環境と流されてばかりの自分が嫌いでした。
"本当に信じれる人"
"一緒にいて心から楽しいと思える人"
そんな人、到底いるとは思えない。
遊んでばかりの自己中な人だらけの学校。
だけど、今考えると自分が一番自己中だったのかもしれない。
でも、自分の居場所は此所じゃない、と、小学生なりに思った事も事実。
嫌いな自分と向き合おう、と思った事も事実。
だから…まず此所に足を踏み入れた。
赤いバックに白い文字がよく目立つ看板。
沢山の大学紹介ポスターと、資料や教科書を抱えた先生が出入りする職員室。
それらが見える広い玄関。
そこは、【和塾】。
小学校生活最後の夏休み初日。
あたしはその広い玄関に立っていた。