君色-それぞれの翼-
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玄関、職員室、廊下…そして教室の扉。
10日程しか経っていないのに、懐かしい感じがする。
あたしは勢いよく扉を開けた。
「あけましておめでとーございまーす!!」
中には戸谷君だけが机に向かって座っていた。
わざわざ「おめでとうございます」と敬語を使ったのに、先生の姿が見えない。少し損した気分だ。
「久しぶり。」
「…そんなに経ってねぇけどな。」
確かに。
でもそこは頷いて欲しい。
あたしは息を吐いた。
「もう少しだね。」
戸谷君はゆっくり頷いた。
何が、なんて言わなくても分かる。
受験だ。
あと2週間をきっている。
テレビでは様々な店の受験生を狙った商品が取り上げられ、店先にも"合格"と書かれた商品が並んでいた。
そんな時期。
羽坂に落ちたら
戸谷君とも離れることになる。
あたしにとって、それが一番嫌だった。
そんな気持ちを抑えながらも、また受験の波に呑まれて行く。
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「……はえーよ。」
日めくりカレンダーに書いてある数字。
15。
「明日じゃん……」
カレンダーの隣にある窓から外を見てみれば、真っ白な雪が視界に映る。
「明日、早めに家出ないと…」
そう呟くと、後ろにいた戸谷君があたしに聞いてきた。
「緊張してんの。」
相変わらず語尾が上がっているのか分からない言葉。でも最近分かってきた。これは上がってる。
「うーん…ちょっとだけ。」
あたしが苦笑すると、戸谷君は無言で溜め息を吐いた。
「受かるって。」
耳を疑った。
今のは確かに戸谷君が言ったよね?
まさか戸谷君がこんな励ましのような言葉を言うとは思わなかったから。
しかも本人は全く自覚なしだ。
あたしは思わず笑ってしまった。
「明日、頑張ろうね。」
「おー。」
あたしは壁に貼られた『合格』と書かれたポスターを見つめた。