君色-それぞれの翼-
「受験票持った~?」
「持った持った!!いってきまーす!!」

受験当日朝7時。
雪道の中、自転車を走らせて駅に向かう。

休日、しかも早朝の電車はだいぶ空いていて、座って最後の確認の勉強をする余裕があった。


途中の駅で、赤シートやノートを持った小学生が何人か乗ってきた。
おそらく、羽坂受験者だろう。
あたしは親近感を感じながらも少し緊張した。


羽坂の駅までは結構時間がかかったので、外の風景を見て楽しんだ。



熱心に勉強する受験者を見ても、少し緊張はしたものの、不思議と危機感を感じる事は無かった。




やるだけやった。その気持ちが当日の今日、込上げてきたからだと思う。


あたしは深呼吸して、電車を降りた。





駅から歩いて約10分。

漫画に出てきそうな雰囲気の学校、羽坂学園。

あたしはそこに足を踏み入れた。

歴史が感じられる校舎の前には、受付の先生が笑顔で対応している。


あたしも直ぐに受付をすませ、自分の受験番号が書かれた教室に入った。


黒板には今日の予定が書かれている。


一時間目 国語A
二時間目 国語B
三時間目 算数A
四時間目 算数B

昼食

五時間目 理科
六時間目 社会



長いな。


あたしの席は窓側だった。
さっきまで自分がいた受付の場所…、校門がよく見える。
暇だったあたしは受付を済ませる受験生を見ては、どの校舎に入るかを予想して楽しんでいた。

「あっ」

しばらくして、校門の前に高級そうな車が止まった。


珍しい銀色のベンツ――、そして出てきたのは…戸谷君。



「戸谷君!!」
周りは静かなのに、受付を済ませた戸谷君が気になって声を出して呼んでしまった。
手を振るあたしに気付いた戸谷君は、小さくだが手を振ってくれた。あたしが、「頑張ろう」という意味をこめて、小さくガッツポーズをすると、戸谷君はいつもの様に微笑んだ。


声を出したせいで、視線が集中して恥ずかしかったけど、嬉しさの方が強くて、あたしは微笑んだ。


残念ながら戸谷君は違う校舎だった。でもテスト前に顔を合わせる事が出来て、あたしは幸せだった。




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