君色-それぞれの翼-
人多っ…
自動販売機の周りは女子が占領し、お目当ての先生は男子に囲まれながら、スポーツ新聞を見て盛り上がっていた。
面倒臭いなぁ…
そう思いながら先生に話しかけるタイミングを伺った。
周りの男子がやけに鬱陶しい。
あっ…
その時、ある人物が視界に入り、面倒臭いという気持ちが瞬時に吹っ飛ぶ。
新聞の陰にあの人がいた。
やっと見つけた…。
さっきからずっと思っていた人。
視線をこっちに向けない戸谷君に対し、気付いて欲しいという気持ちが込み上げ、あたしは戸谷君をジッと見つめた。
しかし、そのせいで気付いてしまった。自分の気持ちが酷く惨めになるようなことに、気付いてしまった。
戸谷君のいつもと違う表情。
俯くような悲しい表情。
辛そうな見た事のない表情。
そして戸谷君の視線の先…。
自動販売機の前に立っている、女の子。
全身の力が、一瞬全部抜けた気がした。
長身で笑顔を振りまく女の子。
彼女を悲しい目で見る戸谷君。
初めて見る表情。