君色-それぞれの翼-
あたしはカーテンから離れて戸谷君の隣の席に座って、雑誌をチラッと見た。
"羽坂学園甲子園出場"
そんな言葉が巻頭ページを飾っていた。
「野球がしたいから羽坂に行くの?」
あたしが話しかけると、戸谷君はちょっと身を引いて、返事の代わりに首を横に振った。
「約束したから。」
俯き、ページを捲りながら戸谷君はそう答えた。その時、あたしは戸谷君の言葉がよく分からなかったけど、別に気にならず、「ふーん」と適当に相槌をうっておいた。
戸谷君とは初めてに出逢ったのに、緊張しない。不思議な感覚だった。
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「あら、皐君。今日は早いのね。」
時間になり、入ってきた先生が戸谷君に言う。
本人はまた返事を返さずに、小さく頷いた。
授業は直ぐに始まった。
数学の高田という先生は早口で、なかなか聞き取る事が出来ない。
戸谷君は慣れているのか、普通にペンを走らせている。
貰ったテキストなどは結構な量で鞄に詰めるのに苦労した。
授業終了後。
戸谷君は直ぐに教室を出ていった。
もう少し話したかったのに。あたしは少し頬を膨らませた。
ふてぶてしい態度。でも、きっと悪い人では無いだろうな。
話した時間はほんの一瞬。
でも、なんとなくそんな感じがした。
なんとなく。