君色-それぞれの翼-
「コラそこ3人。」
誰かの声がした。
面倒くさ…
「寝るなら自分の部屋でお布団敷いて寝なさいね。」
あたしはゆっくり顔を上げた。
目の前にいたのは仁王立ちした養護の先生だった。
先生はさっき"寝るなら"と言った。
まさか。
あたしは隣の南と斜め前の郁那の姿を見た。
「………やってしまった」
二人共ぐっすり眠っている。
そしてやっと自分も寝ていたことに気がついた。
「はい、じゃあ後の二人も起こして。もうすぐ消灯時間なんだから。」
そう言って先生は出て行った。
あたしはまだ唸りながら頭を抱えた。
「南、郁那。起きて…」
唸っていても仕方が無いので、シャーペンの先でつつきながら二人を起こした。
二人は目を覚ますと、あたしと同じ反応をした。
「明日テストだよね?」
南が現実を確かめる様な質問をする。
郁那は頷き、あたしは溜め息をついた。
とりあえず、文法と公式を頭に突っ込もう。
もうお喋りをしている暇は無かった。
消灯時間までの30分と、翌日のテストまでの1時間。
目をギラギラさせながら勉強した。が。
テストは思ったよりかは簡単だった。
もちろん自信は無いが。
テストが終わったらもう帰る準備。
たった3日しかいなかったのに、この部屋との別れが寂しく感じる。
布団を昨日より丁寧にたたみ、簡単な掃除もしてから、荷物をまとめた。
「あっという間だったね。」
郁那がポツリと言った言葉に同意した。
特別嬉しいことがあったわけでも無く、感動することがあったわけでも無い。平凡な合宿だった。
でも友達も出来たし、何より楽しかった。
でも、一つだけ心に何かが引っ掛かっている。
戸谷君の、『大切な子』。
それだけが気になった。