君色-それぞれの翼-
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「戸谷君宿題やってきた?!」

授業が始まる15分前。

あたしは今更宿題をやっていなかった事に気付く。

戸谷君は鞄から問題集を出してあたしに手渡すと、いつもの野球雑誌に視線を戻した。




塾に通い始めてからもう2ヶ月。少し肌寒くなってきた。

あれから戸谷君とは普通に喋れる様になった。


いや…喋れるように努力した。


最初の方なんて、話を聞いているか聞いてないか分からない様な反応だったから。



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「戸谷君ー、野球って楽しいー?」
ある日あたしがそう聞くと戸谷君はチラッとあたしの顔を見て、直ぐさま視線を雑誌に移した。
せめて頷け。そう思った。


こんなこともあった。


「戸谷君、次の授業って算数?」
戸谷君は分からない位微妙に首を縦に振った。








国語だった。








坂田先生が入ってきたことに驚いたあたしは、当然算数の教科書をしまいながら戸谷君を見た。
しかし戸谷君は"ざまーみろ"というような微妙な笑いであたしを見ていた。






戸谷君…は実は、超ドS。



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その他にも色んなことを知った。

まぁ、全部後で知った事だけど。



まず、カッコいい。これは最初から分かっていたこと。
次に、賢い。
そして、野球バカ。
少年野球ではサウスポーのピッチャー、エース。


家はボンボン、縮緬屋。




でも、少し変わり者。


戸谷君の筆箱に付いているキーホルダー。…食い倒れ人形。





言う事無し。でも少し変。
でもあたしにとって戸谷君は…とても魅力的だった。


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