君色-それぞれの翼-
チャンス…なのか、これは…?
「戸谷君!!」
いつもの様に、気がつくと戸谷君の名前を呼んでいた。
郁那は少し驚いた表情であたしを見る。
「お疲れ様、凄かったねぇ。」
「どうも。」
戸谷君はうっすらと笑った。そのせいでまたクラクラする。身体が固まって、口さえも動かない。
「えと……」
「さっつっき~、誰と話してんの?彼女?」
滑川君が後ろから戸谷君の肩に飛び付き、戸谷君が苦しそうな声をあげた。
「あ、苗の隣にいた子。」
「……」
昨日会いましたよね?
言おうかと迷ったがやめておく。
「いつもうちの皐がお世話になっております~。」
滑川君が口元を手で押えながら言う。
思わず吹き出しそうになったが、戸谷君のビンタの方が速かった。
「何が"うちの皐"だ、お前誰だよ。」
「皐の母。」
滑川君が真顔で言うので、あたしは思わず吹き出した。
「あ、ウケた。面白かった?」
滑川君はニカッと笑う。
不思議な笑顔だった。特別カッコいい訳でも可愛い訳でも無く、普通の顔。
でも笑うと空気が変わる。笑いが治まっても、すぐには声が出なかった。
「あ…うん…。」
戸惑う様に頷き、あたしは笑い返した。
「皐、そろそろ行くか。」
集まってきた愉快な仲間達をちらっと見ながら、滑川君が戸谷君の肩を引いた。
「じゃ、これからも皐をよろしくお願いします~。」
滑川君が口元を手で押えながら言い、あたしはまた吹き出した。
「一橋、じゃあ…」
「うん、ばいばい。」
戸谷君と滑川君は、軽く手を振りながら愉快な仲間達と一緒に去って行った。
話せた…
あたしは火照った顔を押えながら立ち尽くす。頬はみるみるうちに緩み、ニヤけていることが良く分かる。