君色-それぞれの翼-
「あ…どうも……」
急に現れた戸谷君に驚いたのだろう、苗は不自然な挨拶をした。
戸谷君は軽く頭を下げると、すぐに顔を逸らした。
「じゃ、希咲、あたしら帰るね。」
「あ、ばいばい」
苗は杏奈の手を引き、小走りに駅に向かった。
残されたあたしの前には、戸谷君と滑川君識。
サーッと血の気がひくのが分かる。
あたしは心の中で早くバスのドアが開くのを強く願った。
が。
滑川君の方が速かった。
「…バスの子?」
…何で話しかけて来るんだよ。
戸谷君はずっと黙っているのに。
「…うん」
「じゃあ皐とは小学生の時からの知り合い?」
「……まぁ…」
何でこんなことを聞いて来るのか。
あたしは戸谷君をちらっと見た。
浮かない顔をしている。
その顔は、怒っている様にも拗ねている様にも見える。
「…帰るわ。」
目が合った途端、戸谷君はベンツに向かって歩きだした。
…避けられた?
複雑な思いが心に突き刺さる。
当然の様に手を振り合う戸谷君と滑川君が歪んで見える。
こんな時に「ばいばい」も言えない。
情けない…。
戸谷君が車に乗り込んで、その車が見えなくなるまで、あたしは立ち尽くしていた。
もし滑川君が戸谷君の大切な子を知っていて
滑川君がそれに協力してりしたら
自分は…邪魔………?
「お宅、皐と仲良いの?」
うるさいよ…
何でそんなこと聞くの…
何でそんなに皐、皐って…
「…塾が…一緒…」
逃げたい。
早くコノヒトと離れたい。
「じゃ、皐の入学理由の子じゃないの?」
なんだ、この人も知ってるのか。
大切な子の存在…。
「そんなわけ…ない…」
震える手を強く握り締める。
掌に爪が食い込み、痕がつく。
早く帰れば良いのに。