君色-それぞれの翼-
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「希咲、土曜日空いてる?」
「だから塾だってば。」


土曜日はよく遊びに誘われる。

もちろん全部キャンセル。

もし塾が楽しくなかったら、休んででも遊びに行っていたかもしれないけど。


「あぁ、例の皐君ですか。」
「サウスポーの皐君ですか。」

誘いを断ると、友達はニヤニヤしながらこんなことを言ってくる。

「そ…そんなんじゃないし!!」
「あれぇ?私別に何も"皐君が好き"みたいなこと一言も言ってないんだけどなぁ?」



…ハメられた。



「あー、もう!!」


あたしが怒鳴ると、友達は更にニヤニヤして見てくる。



…気持ち悪。

***********


「……何。」
戸谷君の声で、ようやく自分が戸谷君を見つめていた事に気付く。

「えっあっいやっ何も。」

戸谷君は相変わらず無表情。
そして手にはまた前回とは違う野球雑誌。
「……野球好きだねぇ。」
「……別に。」
…気のせいだろうか。
和塾に来てから結構経つが、戸谷君は"何""別に"以外の言葉を殆ど発していない気がする。

そんなことを思いながらあたしは目を細くして戸谷君を眺める。
戸谷君は視線が痛いのか、雑誌で顔を隠したりしていた。
でもあたしはお構い無しに見続けた。


暫くして、突然戸谷君は吹き出した。

「人の顔見て笑うなんて失礼だね。」


そう言おうとしたけど、窓に映る自分の顔は確かにおかしかったので、黙っておく。


戸谷君は下を向いて、肩を震わせながら笑ってる。



…そんなに面白いのかな。


あたしはまた窓と向き合った。




何故か自分で吹き出した。
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