君色-それぞれの翼-
(心臓ヤバいな…)
高鳴る心臓に耐えきれなくなり、顔まで火照る。
あたしは顔を見られないよう、ノートで顔を隠した。
(やっぱ好きだ……)
ニヤけそうで、それをこらえている顔は筋肉が緩み、暫く誰にも見せられそうにない。
「……何してんの…怪しいから。」
隣からの声に心臓が止まるんじゃないかと思う位驚く。
「いえ…何も無いです。」
あたしはノートで顔を隠したまま答えた。
「……へぇ。」
戸谷君は怪しげな声を出し、先生がホワイトボードと向かい合った瞬間、ノートを引っ張った。
「わっ!!」
思わず大声を出してしまい、椅子ごと倒れそうになる。
「な…なにすんの!!」
「いや、何してんのかな、と。」
そう言う戸谷君は不敵な笑みを浮かべている。
悪戯っぽい目も、戸谷君がするととても可愛い。
普段笑わないので少し不気味だけど。
「何もしてないじゃん…」
何を期待していたのか、このサディストは。
幸い火照ったあたしの顔には気付かなかったみたいで、戸谷君はそのまま視線をホワイトボードに戻した。
びっくりして顔の熱がひいたあたしは、息を吐いて、授業に集中した。
*********
「今日のは…進歩だよねぇ…」
帰り道、いつもの静かな歩道で、いつもの独り言を呟きながら、少ない星がちらつく空を見上げる。
「避けられては…無いかな。」
ノートを引っ張ったり、等絡んできてくれたおかげで、少し前向きになれた。
不安の荷が少し軽くなった気がする。
でもスタート付近に戻ってしまった恋はまだ再開したばかりで。
今日は数歩進んだだけ。
元の関係に戻ることすらまだ遠い。
あたしは力を貰うかの様に、戸谷君が触れたノートを抱き締めた。