君色-それぞれの翼-
冬期講習-約束-
「もしさぁ…落ちたらどうする?」
あたしは無意識に、心にしまい続けていた質問を口にだしていた。
自分でも、縁起でもないことを聞いたと思う。
それを言った時、戸谷君は少々不愉快そうな顔をした。でも直ぐにいつもの無表情に戻る。
「落ちねぇよ。」
そう、強めの口調で言った。表情とは裏腹に、言葉には自信があった。
受験まであと4ヶ月。
あたしには…まだ危機感が無い。
戸谷君も危機感があるようには見えない。でもそれは絶対受かる気でいるから。見れば分かる。
「滑れねぇから。」
戸谷君はそう付け足した。
前から気になる事を言ってくれる。
『約束』、『滑れない』。
何で遠くの羽坂に行くのか。
野球バカがわざわざバスで約2時間かかる遠くの私学に通う理由。
「何で羽坂に行くの?」
「……またその質問。」
戸谷君はまた流そうとした。
しかし、今日のあたしはジッと戸谷君を見つめた。
もう逃がさない。そんな目で。
初めは…会ったばかりの時はどうでも良かった事なのに…。何でだろ?
あたしが真顔でいると、戸谷君はまた吹き出しそうになった。毎度毎度失礼なことだ。
「何で?!」
戸谷君はやはり答えようとしない。
あたしはムッとした表情で小指を突き出した。
「約束!!」
あたしの大声に、戸谷君は驚いた顔で肩を揺らした。
「……何の」
「羽坂に受かったら、理由教えて!!」
あたしの言葉に、戸谷君はぽかんとする。
どうせまた勝手な奴だとか思っているのだろう。少しずつ呆れた表情に変わっていく。
「オッケェ!?」
あたしが口調を強めて言うと、戸谷君はフッと笑った。
「オッケ。」
そう言って、優しく小指を絡めた。