君色-それぞれの翼-
「野球部暑そー…」
苗の声で、我に返る。
「よくこんな日に練習出来るねぇ…あたしには無理だわ。」
南が溜め息を漏らしながら言う。
苗は暫く野球部の練習を見ていた。
「…わらず速いね…」
何か声がしたので、前を歩いていたあたしは振り向く。
「え?何てー?」
「ん?いや、エースの球速いなぁと思って。」
…やっぱりそう思う?
なんて思ったり。
自分の事じゃないのに、何故か誇らしげに感じ、評価されると嬉しい。
「戸谷君凄いよー、小学校の時からエースなんだって。」
この事知ってるのは、女子ではあたし位かな?
そうだと良いのに、と頬が緩む。
「へー…凄いんだ。」
苗は戸谷君を横目で見た。
…苗が戸谷君に一目惚とかしたらどうしよう。
戸谷君を見ている人がいると、不安になる。
「てか、何でそんなこと知ってるの?」
「えっ、塾が一緒!!」
思ったより大きな声で答えると、苗は興味無さそうに「ふーん…」と呟いた。
ちょっと反応して欲しかったけど、苗が戸谷君に一目惚する事は無さそうだったのでホッとした。
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翌日は塾。
戸谷君と会える日。
「て…昨日も会った…か。」
会ったというより見たのかな、一方的に。
鏡と向かい合って髪を結いながら考える。
そしていつもの様に、気を引き締める。
「…話せるかな。」
あたしは息を吐いて家を出た。
まだ8時半なのに太陽はもう照り付けている。
(日焼止め塗ってきて良かった…)
滲み出始めた汗を拭いながら、なるべく日陰に沿って歩く。
もう夏か…
和に初めて来たのもこの時期…いや、もう1年経っている。速いものだ。
一歩足を踏み入れれば見慣れた職員室や優しい先生達、教室に続く廊下。
そして教室のドアを開ければ
「おはよー…」
「…おはょぅ…」
戸谷君がいる。
久しぶりに交わした、消え入りそうな声量の挨拶。
でもそれだけで一日頑張れる気がする。
単純?そうかもね…。
でも事実。