君色-それぞれの翼-
あたしが話しかけない限り
戸谷君から話しかけてきてくれることは
まずない。
「さっむー!!まだ11月でしょぉー!?」
「でも明後日から12月だし。雪降るかなー。」
「まっさかぁー」
新学期から約3ヵ月…
戸谷君とは全く言葉を交わしていない。
塾にもギリギリに行って、授業が終わればすぐ帰る。
いや…戸谷君の方が早く帰る。
避けられてるのかなーとか思いながら、あたしも結構避けている。
でも相変わらず
後ろ姿を目で追ってしまう癖は直ってない。
今だってそう。
グラウンドで活動している野球部が気になって仕方が無い。
自分の頬を抓りながら、絵を描くのに集中する。
5時を回って杏奈が帰り南が帰り…郁那も帰って美術室はあたしと苗だけになった。
苗はいつも絵を描くのに集中している。
会話に参加しながらも黙々と書き続けている。
筆を水につける音がやけに大きく感じた。
暫く経って静かすぎる美術室で、あたしの集中力は途切れた。
そして
思わず窓からグラウンドを眺める。
何で見ちゃうんだろう…
避けてる人の筈なのに…。