君色-それぞれの翼-
でもこうやって戸谷君の顔をちゃんと見るって
凄い久しぶり…。
「あ……」
笑ってる…。
滑川君や他の仲間に囲まれて。
グローブはめて。
笑ってる……
今まで見てきた笑顔と変わらない、何も変わらないあの笑顔…。
「あれ……」
目が熱い………
とりあえずあたしは机に伏せた。
「完成ー!!希咲、そろそろ帰………希咲?」
作品が完成した苗が近寄って来る。
あたしはわざと寝息のような息を漏らした。
「希咲…泣いてるの…?」
苗の言葉にまた涙が溢れた。
苗の目は誤魔化せない。
あたしは…泣いてる。
戸谷君の笑顔を見て…
忘れようとした全てが蘇ってきて…
泣いてるんだ……。
好きなんだ…………
あたしが顔を上げると、苗が隣でしゃがみ込んでいた。
「帰ろっか。」
何も聞かずに、苗は言った。
それが嬉しかった。
あたしはもう逃げない。
自分の気持ちから…。