君色-それぞれの翼-
でも、謝るチャンスは全く無かった。
次の休み時間も、その次の休み時間も、その次の休み時間も、戸谷君の周りには友達がいた。
悪いけど…あの中に入っていく勇気なんて、あたしは持ち合わせていない。
返す時に謝ろう…。
放課後、戸谷君が既に部活に行った後の1組で、あたしは思った。
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部活が終わって、あたしは苗と郁那と一緒に美術室の校舎を出た。
昼より一段と冷たくなった風邪が、身体を震わせる。
「寒いねぇ、毎日。」
郁那が暖かそうなマフラーを巻き直しながら零した。
そうか…もう、12月。
11月に比べ、気温は更に下がってきた。そろそろ雪が降っても不思議ではない。
あたしもマフラー持ってこようかな…
ふと、寂しい首元に触れてみると、自分の手がとても冷たく感じた。
「あ、秋山。」
下駄箱の前で、郁那が足を止めた。
「よう、今帰り?」
秋山君――秋山要は、片手を上げて少し笑った。
秋山君は野球部の中で一番の長身で、6番サード。
野球部に詳しい苗が言ってた。
「俺らバスケして帰るけど、やる?」
「遠慮しとく。」
秋山君の誘いを郁那はバッサリと断った。
てか……
俺ら……?
「要ボール持ってきたー」
「おー、サンキュー識!!」
出た。じゃあ…
「要…俺多分あと10分位でバス開く…」
彼は顔を背けながら滑川君の後ろから出てきた。
…あー
やっぱり……
戸谷君も…。
「あ!!」
全く言葉を発しず、ずっと後ろにいた苗の声にあたしと郁那が反応する。
「美術室に忘れ物しちゃった…取って来る!!」
そう言って焦った表情の苗は、早足でその場を去っていった。