君色-それぞれの翼-
バスケのコートは、バス停の隣にある。
あたしは郁那と別れ、バス停のベンチに腰を下ろした。
秋山君や滑川君はマフラーをきつめに結んで気合いを入れ、ドリブルを始める。
「おい!!皐も入れよ!!」
ボールを手にした滑川君が、柱に凭れかかっている戸谷君に向かって叫んだ。
「………いい。寒いから。」
その言葉に、あたしは罪悪感に襲われた。
バスケをしている野球部員の中でマフラーをしていないのは、戸谷君だけ。
腕を組んで立っているので、微妙に震えているのが少し分かる。
あたしはなんとなく顔を背けた。
プシュー…
「じゃ、帰るわ。」
戸谷君がこっちに向かってきたので、あたしは立ち止まり、戸谷君の後にバスに乗り込んだ。
開いたばかりのバスは暖房が効いていない上、冷気が漂っていたので、外より寒かった。
あたしは戸谷君の後ろに座り、寒さを紛らわせる為に鞄を抱えた。
戸谷君は相変わらず腕を組んだまま足を震わせている。
…なんか悪いことしたなぁ……
「戸谷君…」
「…何。」
「ごめんね…マフラー忘れちゃった…」
「…別にいつでも良いけど」
そう言いながら、戸谷君はバスが動き始めたと同時に座り直す。
「でも…寒いでしょ?」
「…別に…」
「…さっき言ったじゃん。」
あたしが言うと、戸谷君は目を少しパチクリさせて苦笑した。
「…言ったっけ。」
「言ったよ。」
「…忘れたな。」
ほら…また嘘吐く。
貴方は優しいから…
「…あと…コピーありがと…」
「…ん。」
戸谷君は優しく笑い、前を向いた。
バスが動き始めてから随分暖房が効いてきた。
そのお陰か、戸谷君の腕はもう解けていた。
戸谷君に対してかかっていた。あたしの心の鎖みたいに…
夏休みから約4ヵ月…
また自分の気持ちと正直に向き合えた気がした。