予想外の恋愛
甘さと苦さ
「お湯を注ぐのはもう少し低いところから…そうそう。あ、そこで一回とめて」
「え?どうしてですか?」
「一回のお湯では蒸らすんだよ。ちょっと待ってから二回目のお湯を注ぐんだ」
「…なるほど」
お店がゆっくりしている空き時間。
店長がコーヒーの淹れ方を教えてくれると言ってから、時々こうして練習している。
一つ一つの動作がすべて意味を持っていて、奥が深い。
少しお湯の温度が高かったら、少し豆を挽く時間を変えたら、まったく味が変わってくるのが不思議だ。
「今使ってる豆は酸味が少ないものだから、その特徴を生かすように淹れてあげることを心がける。豆の種類によって気持ちの入れ方を変えるのがコツだよ」
「それだいぶ上級者向けじゃないですか…」
「大丈夫。ナギサちゃんはすぐ美味しく淹れられるようになると思うよ」
ドリップされたコーヒーがサーバーに溜まっていくのを見つめる。
初めて淹れた時よりも透き通っているような気がした。
「あ、そうだ」
抽出が終わったコーヒーをカップに注ごうとしたところで、あることを思い出した。
バックルームに入り、荷物から取り出したのは赤いコーヒーカップ。
それを持ってカウンターの中へ戻ると、コーヒーをゆっくりと注いだ。
赤い光沢感と黒の液体とのコントラストがすごくしっくりきた。
なんだか自分だけの飲み物みたいだ。