予想外の恋愛
「そのカップ可愛いねー。フタも付いてるんだ?」
「はい、一目惚れして買ったんです。気に入ったものを使うと、練習もさらに楽しくなるかと思って」
「うん、いい考えだね。
…ナギサちゃんがそうやってカップに一目惚れしたり、コーヒーを淹れることに興味を持ったのは、このお店がきっかけだと思うと僕はすごく嬉しい。
もともとカフェを開こうと思ったのも、誰かの人生に携わりたいと思ったからだから」
お店をオープンしたての頃を思い出したのか、遠くを見るような目でそう話し始めた店長。
自分で淹れたコーヒーを一口飲んでみると、なんだか少し薄い。
「僕は大学を出て、割と大手の会社に就職したんだ。とても誇らしかったし、同級生よりも一歩進んでる感じがしていい気になってた」
「店長のそういう話初めて聞きますね」
「あまり自慢出来る話じゃないからね。
…だけど思っていたよりもずっと同期との競争は激しかったし、上司からの威圧は重たかった。自分は何がしたいんだろう、これが正しい道なのかって行き詰まって…情けないことに疲れちゃったんだよね、全部に」
似ているといえばおこがましいかもしれないけれど、私も同じような経験をした。
すべてが嫌になって疲れて、結果前の会社を辞めたのだ。
「そんな時、ずっと仲良くしてくれてた先輩が喫茶店を開いたんだ。その先輩は昔からコーヒーが好きで、遠くまで豆を買いに行って家で自分で挽いたりしてたから、すごく納得出来たな。
同時に羨ましかった。好きなことを仕事に出来る人なんて、この世界にどれだけいるだろう、って」